『ヴォーパルス』制作ノート、デザイン編
自分は、人がゲームについて語っているのを見るのが好きで、デザイナーズノートというものも大好きです。たとえば最近の日本のボードゲーム関係では、鈴木銀一郎さんによるアークライトの『くにとりっ!』のデザイナーズノートや、木皿儀隼一さんによるワンドローの『7つの島』のデザイナーズノートを楽しく読ませていただきました。
同人ボードゲームの世界においても、デザイナーズノートを書くということがもっと一般的になってくれれば、僕は非常に嬉しく思いますし、いろんなよい効果が生まれると思います。で、そのためにはどうしたらいいかということで、まず自分でもひとつ書いてみることにしました。それが今回の記事です。

自分は今回、この『ヴォーパルス』の制作の過程を4つの段階に分けて考えていたので、このデザイナーズノートではそれを踏襲し、「デザイン」「デベロップメント」「プロダクションとパブリケーション」の三部構成というかたちにしようと思っています。今回はそのひとつ目、「デザイン」に関する内容を掲載しています。
もちろん自分はアマチュアで、ゲームを作ったのもこれが初めてです。大した話を書くことはできないかもしれませんが、自分のゲームは当然好きですし、楽しく雑多に書いていこうと思います。ご笑覧ください。
それでは、以下からが本文です。
『ヴォーパルス』制作ノート、デザイン編
『ヴォーパルス』を作ったきっかけ
このゲームを作るきっかけになってくれたのは、ゲームマーケット2010で頒布された『テラフォーマー』という同人ボードゲームでした。

- 既存のメカニクスの組み合わせをもとにしていること。
- まとまりのあるプロダクトデザインであること。
『テラフォーマー』における以上の2つの特徴が、僕のゲーム制作を後押ししてくれました。このゲームは、プロでなくとも意識次第でこういったものができるということを見せてくれた作品で、実際に広い人気を博しています。このゲームに勇気づけられたり感化されたりした同人ゲーム作者は多かったのではないかなと思います。
『ヴォーパルス』の源流
僕は紹介記事で、このゲームが『セブンワンダーズ』と『セブン』に類似していると書いてきました。

『セブンワンダーズ』に関してはレビューを読んだくらいで、ルールの詳細は知りませんでした。全員同時に進行するドラフトを扱ったカードゲームが人気ということで、その流行に乗っかったわけです。
プレイしたことはなくても、もちろん意識はしていました。借用した部分もひとつだけあって、「左右のプレイヤーと戦争する」というアイデアは、おそらくこの先行作品がなければ思いつかなかったのではないかと思います。『ヴォーパルス』を作った後に『セブンワンダーズ』をプレイする機会がありましたが、ルールの大部分が想像とはかなり違っていて、そのことはずいぶんおもしろく感じました(ピックしたカードは即座に使用する、建物にはほとんど特殊効果がない、各ラウンドで使用するカードが分かれている、等々)。

『セブン』もプレイしたことはありませんが、その続編の『ヴィーナス&ブレイブス』には少しだけふれたことがあります。このゲームから直接思いついたというわけではないのですが、「経年」というメカニクスの元はたぶんここにあるのではないかと思います。
なぜプレイしたことのないゲームを惹句に引用したかというと、それは紹介記事の中でも言及した「スリービート」のためです。このことに関しては、後の「プロダクションとパブリケーション編」でふれようと思います。
『ヴォーパルス』の原型

このゲームは最初に、16枚のデッキでプレイするMTG風の対戦型カードゲームとして着想されました。40枚ほどカードをデザインしてテストプレイしてみましたが、とても楽しめるものになりそうにはなかったのでつくり直すことになりました。この元のゲームからは、「前衛と後衛で部隊を編成する」という部分が『ヴォーパルス』に継承されています。

次に、『ドミニオン』と『サンクトペテルブルク』を組み合わせたようなゲームを考えました。これは今の『ヴォーパルス』にいくらか似ていますが、手番順があり、襲い来るモンスターを迎撃するゲームで、特に、ユニットがアクションを行うという点が異なっていました。このゲームでも100枚ほどカードをデザインしてテスト環境を作ってみましたが、まったく楽しくなかったので没にすることになりました。このゲームには経験カウンターを置くことでユニットがレベルアップするというメカニクスがあり、それをどう管理していくかがプレイの鍵になっていました。これは少しひねりを加えられて、『ヴォーパルス』の「経年」に継承されています。
その後『セブンワンダーズ』が日本でも話題になったので、上のゲームを土台にして、全員同時進行のドラフトゲームとして『ヴォーパルス』のデザインが始まったわけです。上のゲームではオープンマーケット式だったユニットの獲得方法を、ドラフト式に変えてみたらちょうどうまくいった、という具合です。
体験をデザインする
ゲームをデザインすると一口に言っても、そこにはいろいろな考えの道筋があると思います。ルールのデザインがゲームデザインだと考えている人もいれば、メカニクスのデザインがゲームデザインだと考えている方もいるのではないでしょうか。あるいはジレンマのデザインとか、バランスのデザインとか。
今の自分は、ゲームデザインというのは、体験をデザインすることだと思っています。ゲームの構造が正しく優れていることが重要だと考えていたこともありましたが、今はそれも体験のデザインのための手段のひとつだと思っていて、『ヴォーパルス』はどんな体験を生み出せるかという観点からデザインしたつもりです。
まずカードを作る
ゲームをデザインするとき、まずルールから考え始めるという人も多いのではないかと思います。でも自分は、それよりも先にコンポーネントをある程度揃えてしまうようにしています。たいていの場合、机上で書いたルールはうまく動かないので、手と頭を実際に動かしながら作っていったほうがよい結果が得られると思っているからです。
今回はカードゲームを作るということは決まっていたので、まず白紙のカードをなんとなく場に並べたり手札として持ったりして、どういう動きをするゲームにしたいのかを固めました。それから名前と数字だけを書いたカードを適当に作って、ゲーム全体の進行のイメージを作りました。

そして36種72枚のカードをラフにデザインして印刷し、テストプレイしながらルールを固めました。フェイズ進行の順序や、コストの支払い方や、ドラフトの手順や、その他多くの具体的なルールは、この初期のテストプレイの間に作られていきました。もちろん最初にデザインしたカードはルールが固まる前のものなので、使いものにならなくなってしまったものもいくつかあります。それらはそのまま没にされたり、手を加えられて再利用されたりしました。
この過程はちょっと二度手間に思えるかもしれません。でも自分は、ゲームをデザインする際には、とりあえずかたちだけでも遊べるものを作ってしまうのがいいと思っています。カードがなければ頭の中でしか遊ぶことはできませんが、ルールがなくてもいろいろ試しながら遊ぶことはできるからです。
最優先事項を決める
何をするにしても、優先順位というのは大事なものです。このゲームに関しては「ドラフト」と「経年」を主要な要素として上げてきましたが、その両方を同じ優先度で考えていたわけではありません。優先順位をしっかりと決めなければ、いずれかを損なわねばならないような選択肢に出会ったとき、何もできなくなってしまうからです。
『ヴォーパルス』のデザインでもっとも優先されたのは、「経年」のメカニクスです。すべてのユニットが経年と何らかの関わりを持っていますし、その多くは経年をよりおもしろいものにするべくデザインされています。建物は経年と関係ないように見えるかもしれませんが、経年によって去っていくユニットと対比することで、そのメカニクスの意味を強める役割を持っています。
もちろん「ドラフト」の方も主要な要素であり、それをおもしろくするためにいくつもの要素をデザインしました。でも、この二つを秤にかけなければならなくなったときには、常に優先順位の高い側を選びました。
一般的なユニットのデザイン
多くのユニットは、できる限りシンプルになるようデザインしました。特に重視したのは、そのユニットが結局のところ何をしてくれるのかをわかりやすくすることでした。

収入や資源や兵力など、ユニットには役割があります。そういった役割はプレイヤーが選択する際の指針になってくれるので、それが伝わることを考えました。プレイヤーはまず自分が何々をしたいという目的を持っていて、それを実現するためにユニットを選ぶわけです。一度使ってみるまで実際にどう動くかわからないカードもおもしろいものですが、そればかりでは選択が難しくなりすぎてしまうため、多くのユニットはシンプルなデザインになっています。
特殊なユニットのデザイン
一般的なユニットばかりでは退屈になってしまうので、もちろん特殊なユニットもいくつかデザインしました。その際には、いったいどういうカードがあるとゲームが楽しくなるかを考え、その条件にあうものをデザインするようがんばりました。

たとえば、以下のようなカードの存在はゲームを楽しくしてくれるのではないかと思います。
- 他とは比べものにならないくらい大きなことをしてくれるカード。
- 強力なパワーを持つが、その方向性を限定しないカード。
- 弱点があるが、それを利用できるカード。
- やったぜ感のあるカード。
- 窮地に陥ったとき、さらに危険な賭けに出ることができるカード。
- 使いこなすために技量が必要なカード。
- 主軸として使うことで、普段とは別のゲームを作りだしてくれるカード。
上のようなことを考えながら、特殊なユニットをデザインしていきました。ただこのときにもやはり、複雑性を低減するために、二つのことを気にかけています。
ひとつ目は、やはりユニットの働きを明確にすることです。使い方が多岐にわたるとしても、ユニット自身がすることはわかりやすくすべきだと考えました。そのため、ほとんどのユニットはひとつだけの能力を持つか、あるいは互いに関連する二つの能力を持つことになりました。
二つ目は、そういった特殊なユニットが溢れすぎないようにすることです。特殊なユニットが多くなってしまうと、ドラフトでの選択に時間がかかるようになってしまいますし、場に配置してからも処理が煩雑になってしまいます。そのため、特殊なカードのほとんどは、ゲーム中に1枚ずつしか存在しない「レア」扱いのカードとして枚数が抑えられています。もちろんこれには、そういったレアカードの存在を際立たせる効果もあります。
建物のデザイン
テストを経る過程でもっとも変更されたのは、建物とその扱いかもしれません。最初にデザインした建物は、資源を支払って追加の能力と勝利点を得るためだけのもので、まったくゲーム上で機能していませんでした。戦略を特化することでなんとなくボーナスを得られるようなものにはなっていましたが、何も噛み合っておらず、ただそれだけでした。
最初のものを没にして作り直すことになったとき、このゲームの建物をデザインするうえで重要なのは、プレイヤーに指針を与えることだと考えました。システムの都合上、最初に配られて目にすることができるユニットの数は限られています。しかし建物は場にすべて並べられ公開されているので、それを見ることで、このゲームにどんな要素があり、どうすれば勝利点を稼げるのかをある程度判断できるようになるわけです。

まず、「レベル2の建物を作ることで配置できるユニットの数が増える」というルールを作りました。そうすることで建物の重要性が増し、レベル2の建物を作ることがゲームにおける中間目標になりました。
それから、特定の方向に特化したプレイングに報酬を与える、ということを意識して建物の能力を作り直しました。つまり、建物の能力が勝利点の要になり、そのまま勝利手段になってくれるようにしたということです。こうすることで建物が指針になり、さまざまな道筋とその組み合わせがゲームに生まれたと思います。
資源のデザイン
このゲームには「木材」「食料」「鉱石」の三つの資源があります。
こういった資源という要素は、多くのゲームに含まれています。たとえば『カタンの開拓者たち』や『ストーンエイジ』がそうです。でもそういったゲームの中には、資源の扱いに関して僕が不満を覚えるようなものもありました。各資源が「資源A」「資源B」「資源C」のような感じで特色がなく、リソースの種類を増やすために用意されただけのような状態のものです。これはたとえば、『ファイナルファンタジー』の「ファイア」「ブリザド」「サンダー」がどれも同じような効果の魔法で、敵の弱点にあわせて選ぶだけでしかないというのにちょっと似ています。
そういったゲームに対して、資源に特色があり、それぞれの資源らしさが生まれているようなゲームの方が僕は好きです。たとえば『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』では、四つの資源のそれぞれに癖があり、特化した戦略も組み合わせた戦略もとることができます。他にも『ケイラス』では、「金」という資源が他の資源に比べて遥かに貴重で強力であり、圧倒的な存在感を持っています。
『ヴォーパルス』でも、各資源にそれぞれの感覚が生まれるようにしたつもりです。「木材」は豊富にあり、序盤に作る建物の建築資材になってくれます。「食料」は建物だけでなくユニットも利用できる資源であり、資金に繋がる働きも持っています。「鉱石」は貴重で最初は容易には入手できませんが、建物を完成させるために必要なことが多く、また大量の勝利点を生みだす力を持っています。それぞれに特色がありながらも、三つまとめて「資源」として認識できるゲーム要素になってくれていればありがたいと思います。
振れ幅を大きく
このゲームを作る過程で、振れ幅は大きいほうが楽しい、と思うようになりました。たとえば、〈ドラゴン〉や〈鉄巨兵〉のようなカードがそれを示す例です。

「普段は兵力6で、経年カウンターが置かれていると兵力が+1される」よりも、「普段は兵力1で、経年カウンターが置かれていると兵力が+7される」の方が楽しいということです。効果を劇的にしたほうが楽しい、と言ってもいいかもしれません。普段は気弱な少年が強くてかっこいいヒーローに変身して戦うという少年漫画の原理です。
振れ幅の大きいデザインというのは、バランスをとるのが難しくなってしまいがちなので、避けられることもあるかもしれません。しかも今回のような場合は、ゲーム部分に寄与することもあまりありません。でもそうすることを選んだのは、上でも一度述べたとおり、ゲームそのものよりも、それが生む体験のデザインを重視したからです。
一応〈ドラゴン〉のようなカードの振れ幅を大きくすることにはゲーム的にも意味があります。この場合、鉱石を生産しているプレイヤーにとっては強力ですが、そうでないプレイヤーにとっては不要なカードとなるので、ドラフトにおける選択の意味を強調する効果が生まれるからです。また〈ゴブリン〉のような枚数の多い「コモン」扱いのカードの場合は、不要になりすぎないよう、逆に振れ幅を抑えたデザインになっています。
兵力の振れ幅
ユニットに関する振れ幅という点では、もうひとつ、兵力の断絶というものがあります。『ヴォーパルス』のユニットの兵力には0から7までの幅がありますが、兵力5や兵力6のユニットはいません。兵力4と兵力7の間に、ちょっとした断絶があるわけです。

兵力7のカードは、デベロップメント中には「ボム」と呼んでいました。この断絶は、兵力の高いユニットの存在を際立たせる効果ももちろんありますし、戦争の勝敗を制御する役割もあります。兵力7のユニットを配置されると負けるが、そうでなければまず勝てるだろう、と予測ができる状況がしばしばあります。兵力7のユニットはその他のユニットのだいたい2体分の働きをするので、前衛の数が違うときにその差を埋めることもできます。
気持ちよく勝つ
対戦ゲームのデザインでは、しばしば負けている側が有利になるような仕掛けが施されます。格闘ゲームでは根性補正が働いて逆転しやすくなっていたり、レースゲームでは下位の車が自動的に加速されて追いぬきやすくなっていたりするわけです。ボードゲームで言えば、『電力会社』や『ビール侯爵』では先行しているプレイヤーに手番順でペナルティが与えられますし、『ドミニオン』では勝利点を大量に獲得したプレイヤーのデッキは動きが鈍り後続が追いつきやすくなります。
しかし自分は、こういったデザインはあまり好みではありません。接戦を演出されると自分自身の力で戦っている感じが薄れてしまいますし、有利な状況を得るために序盤はわざと負けるという直感に沿わないプレイングを可能にしてしまうからです(こういうゲームが好きな方もいると思います。トップになると叩かれるから下位で潜伏しなければならない、という作品は多くありますね。序盤で勝敗が確定しないように、序盤の意味を小さくしている作品も結構あると思います)。
逆のデザインをしているゲームもあって、『Team Fortress 2』はその典型です。このゲームは陣地を奪い合うタイプの FPS ですが、勝っている側がより有利になるように補正がかかり、最後には相手を押しこんで気持ちよく勝てるようになっています。これには、ゲームがだらだらと長引いて引き分けになるのを防ぐ役割があるそうです。
『ヴォーパルス』にそういった補正を組み込んだわけではありませんが、気持ちよく勝つ、ということは考えました。そのためこのゲームには、『麻雀』における役満や、ケイブの STG における金塊ジャラジャラのような、数字が爆発して一気に勝利を確信できる派手な瞬間を埋め込んであります。〈ワーム〉を並べて兵力が20を超えるとき、〈宝物庫〉で2桁の勝利点を獲得するとき、〈トーテム像〉の上に10個近い経年カウンターを置くとき、その感覚を楽しんでもらえるとうれしいなと思います。
開かれたコンボ
『ヴォーパルス』には、カード同士の組み合わせによるコンボがいくつも組み込まれています。そういったコンボの案を出すために、『マジック:ザ・ギャザリング』や『ドミニオン』のカードリストをずいぶん眺めたりもしました。
これは単に僕の好みかもしれませんが、コンボをデザインするうえで重要なのは、用途が開かれたカードを作ることだと思っています。たとえば、「〈ユニットA〉が場にいるときに強化される」という能力を持つ〈ユニットB〉というカードがあれば、その用途は閉じていると言えます。〈ユニットA〉と一緒に使えれば強く、そうでなければ弱いというだけで、他に何の広がりもないからです。
このゲームにおける用途の開かれたカードの好例は、〈時計職人〉です。このユニットは単体ではほとんど何もしませんが、他のユニットと組み合わせることによってさまざまなコンボを生み出します。たとえば〈画家〉に経年カウンターを置いて死期を早めたり、あるいは〈鉄巨兵〉に経年カウンターを置いてロボットの建造を急いだりすることができるわけです。能力の使用先として、他にも多くのユニットが考えられます。『ヴォーパルス』では、経年というメカニクスを軸にして、多くのコンボが生まれました。経年カウンターが全ユニットに共通する言語として、コンボを生む媒介になってくれているわけです。

特にここで重要なのは、ひとつの能力だけを持つユニットが、さまざまな役割を担うということです。上の〈時計職人〉の例で言えば、〈画家〉と組み合わせたときには勝利点を稼ぐ役割を果たし、〈鉄巨兵〉と組み合わせたときには兵力を増強する役割を果たしています。一枚のカードが、いくつもの異なる働きをするわけです。毎回同じことしかしないカードはただそれだけですが、開かれた用途を持つカードには無限の広がりがあります。そしてそれが、発見する楽しさにも繋がってきます。〈鉄巨兵〉を〈時計職人〉で強化したあとには、〈癒し手〉で延命してさらに働かせることができ、そうして置かれた2つの経年カウンターは〈夢読み〉で勝利点として回収できたりもします。
非公開のゲームプレイ
『麻雀』の人気の源のひとつとして、ゲームプレイが非公開だというのがあるのではないかと思っています。『麻雀』では手牌が非公開であり、どういう状況からどういう判断で選択を行っているのか、他のプレイヤーにはわかりません。これによって、悪手を打っても気付かれず、自分が下手だと自覚するストレスもなく、負けたときには運のせいにすることができるようになっています。『ドミニオン』や『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』のような最近の人気作にも、この要素がいくらかあるのではないかと思います。
上で述べた『ヴォーパルス』のオープンマーケット式のプロトタイプは、ほぼすべての情報が公開されたゲームでした。その分、ゲーム終了までの手順を読む必要があり、かなりの疲労とストレスがたまるものになってしまっていました。ドラフトという方式に出会ったことによって、ゲームプレイがある程度非公開になり、自分のプレイングがどう見られるかを気にする必要がなくなって、考慮に入れなければならない相手の情報も絞られました。
これがよいことなのかどうかには、異論があると思います。しかしいずれにせよ、自分が気にしているのはそれによってゲーム全体がどうなるかということであり、それが生みだす体験がどうなるかということです。今回は、非公開のゲームプレイという要素がいい結果を生んだと思っています。
同時進行
『ヴォーパルス』では、全員が同時にプレイすることでゲームが進行していきます。これには大きな問題があって、同時だ同時だと言いながらも、実際には相手の動きを見てから選択を行うことができてしまったりします。このゲームの場合、ユニット配置時の能力の使用や、建物の建設の際に、その問題が大きくなってしまいます。
デザイン中にこの問題について考えたときには、以下の二つの対策を思いつきました。
- 選択を行うための命令カードを作り、毎回それを伏せて出す。
- 相手から自分の場が見えなくなるような衝立を作り、その中で操作を行う。
特に上の方法はポピュラーで、『エルグランデ』や『七王国の玉座』や『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』などで採用されています。でもこのゲームの場合は、これを採用すると要求されるカードが多くなりすぎるので不可能でした。紙と鉛筆で毎回の行動を指定するというのも、現実的とは思えませんでした。下の方法はちょっとコンポーネントを増やすだけで実現できそうではありましたが、その衝立の裏でいくらでもイカサマができてしまうという問題がありました(たとえば経年カウンターを別のユニットの上に移動させるなど)。
どちらの方法も実現できそうになかったので、じゃあどうすればいいだろう? ということで、他のゲームを参考にしてみることにしました。そこで出てきたのが『レース・フォー・ザ・ギャラクシー』です。『レース』では、アクションを選択する際には上で述べたとおり専用のカードを使いますが、「消費」のアクションで同時に選択を行う際には、その同時性が依然問題として残っていました。相手が資源をどう消費するかを見てから、自分がどうするかを選べるわけです。お互いがそう考える場合さえあります。
結局のところ重要なのは、ゲームがどうプレイされるかということです。『ヴォーパルス』におけるこの同時性の問題が致命的なものかどうか考えましたが、テストプレイ中にそれがゲームを破綻させたことは一度もありませんでした。イカサマはやろうと思えばどんなルールでもできるわけですし、計算ミスや処理忘れのような、意図しなくても起こる不具合の方が遥かに大きな問題です。そういうわけでこのゲームでは、同時性の問題はそのまま残して、それでも気になるプレイヤーがいたときのために「厳密な手番順」のルールを選択ルールとして加えることにしました(『レース』と同じ対応です)。人によってはめんどうなルールに思えるかもしれませんが、そう思うプレイヤーは、おそらくそもそもこのルールに必要性を感じないだろうと考えています。
勝利点トラック
みなさんにも、好きなゲーム要素というものがいくつかあるのではないでしょうか。僕は勝利点トラックが好きです。各プレイヤーの現在順位を可視化して、抜きつ抜かれつの展開を目に見せてくれるからです。ラウンドで得た勝利点がわかりやすくなることで、そのラウンドの行動がよかったのか悪かったのかについてフィードバックを得ることができるというよさもあります。
しかし最近のゲームでは、勝利点トラックが採用されることが減ったような気がします(気のせいかもしれません)。その理由として、トップがわかると叩かれてしまうとか、ゲーム終了時に入る勝利点の比重が大きいせいで正しくない途中経過になってしまうとか、削れるコンポーネントは削りたいとか、そういったものがありそうです。今は、勝利点チップや勝利点つきのカードを使うゲームがよく出ていますね。
『ヴォーパルス』では、コンポーネントを増やしてまで勝利点トラックを採用しました。それが楽しい体験につながると思ったからです。しかし当初は、ゲーム終了時に入る建物の勝利点が大きかったため、最後に逆転が起こりすぎるという問題がありました。勝利点トラックでは勝っているように見えても、実際にはそうではないということがしばしば起こったのです。最終的には、ゲームバランスの都合で建物の勝利点が抑えられ、勝利点トラック上の位置が実際の順位をうまく表すようになったと思います。ただ、最後の最後で一気に追い抜いて勝つというのも楽しいものだと感じてはいたので、そこから〈トーテム像〉というユニットが生まれました。
複雑性を抑える
複雑性は、ゲームの制作において最大の敵であるかもしれません。何か要素を加えるたびに複雑性は増しますし、何か要素を取り除いた場合にさえ複雑性が増す場合があります。
『ヴォーパルス』は各カードが特殊な能力を持つゲームであり、その組み合わせによって複雑性が膨れ上がります。デザイン中、複雑性を抑えるためにいろいろなことに気を使いました。そして複雑性の問題の多くは、「分析麻痺」と「追跡問題」にあるのではないかと考えました。ここではその二つについてのみ、下の項で記そうと思います。
分析麻痺
「分析麻痺」というのは、「analysis paralysis」の訳語で、分析にかかる費用が分析から得られる報酬を超えた状態を指します。たとえば、「30分かけて歩いて行くか、5分で電車で行くかを、何時間もかけて延々考えてしまう」というような状態です。ゲームで言えば、たいして結果の変わらない選択をするのに時間をかけすぎてしまう状態のことですね。
分析麻痺は、選択肢から生まれます。選択肢は複雑性の温床です。しかし、選択肢というものはゲームにおいて一番と言ってもいいほどに重要なものなので、むやみに削るわけにもいきません。
特に分析麻痺を生むのは、組み合わせの選択です。複数の要素の組み合わせを選択するとき、複雑性が爆発してしまうわけです。『ヴォーパルス』では最初、一度に複数の建物を作ることができました。しかしそうすると、資源の支払い方の選択に組み合わせが生まれてしまい、本当に複雑な事態になってしまうのです。たとえば、木材2個と鉱石1個を生産している場合に作ることのできる建物は、〈宝物庫〉レベル2、〈兵舎〉レベル2、〈城下町〉レベル1と〈聖堂〉レベル1、〈城下町〉レベル1と〈兵舎〉レベル1、〈宝物庫〉レベル1と〈聖堂〉レベル1……というように、いくらでも組み合わせが生まれてきてしまいます。1ラウンドに作ることができる建物をひとつに限れば、「資源をどう支払うか」ではなく「どの建物を作るか」を選ぶようになり、選択するものがひとつに絞られます。

また似たような理由で、『ヴォーパルス』には「資源を消費する」という要素を組み込みませんでした。資源を利用する能力を持つユニットや建物は多くありますが、そのどれもが、「資源を消費することで発動する」のではなく「資源を生産しているだけで発揮される」という効果になっています。こうすることで、資源の使い道をユニットや建物の間で割り振る必要がなくなり、組み合わせを選択する必要をなくしているわけです。
『ヴォーパルス』では、組み合わせを選択する機会を減らし、できる限りひとつのものを選択するようにしてあります。例外として、配置フェイズでは配置するユニットの組み合わせを選択することになりますが、それはそもそもドラフト中にひとつずつ選んだものなので、それほど複雑な選択にはならないだろうと考えています。
追跡問題
「追跡問題」というのは「tracking issue」の訳語ですが、あまり一般的な語ではないかもしれません(そもそもこの訳は適切ではないかもしれません)。ボードゲームにおいては、何かを記憶したりチェックし続けたりする必要がよくありますが、この語はそれが困難になった状態を指します。
ちょっとわかりにくいかもしれないので例を挙げると、たとえば『ドミニオン』で〈手先〉や〈寵臣〉を何枚も使用したあと、どのカードでどの効果を使ったかわからなくなる場合があると思います。これが追跡問題です。『アグリコラ』でスペースに資源を補充するのを忘れてしまうことや、『七王国の玉座』で今が何ラウンド目かわからなくなってしまうこともそうです。また、『マジック:ザ・ギャザリング』でアップキープの処理を忘れたり、常在型能力の効果を無視してしまったりすることもよくあることだと思います。
これはゲーム自体とは結構離れた要素ではあるんですが、デザインが解決しなければならない問題です。『ヴォーパルス』のようなカードの特殊効果が多いゲームでは、この問題が特に顕著になってしまいます。
解決策のひとつは、まず数を減らすことです。とにかく数を減らしていけば、チェックしなければならない要素も少なくなります。『ヴォーパルス』には、初期のルールでは6つのフェイズがありましたが、最終的には4つに減らしました。アイデア段階では5種類あった資源の数も3種類に減らしました。特殊な能力を持ったユニットの数を減らし、異なるユニットが持つ似たような能力はできる限り統一して同じパターンで認識できるようにしました。わかりにくい能力はできる限り削除しました。建物の種類も6種類から5種類に減らし、最初は3段階だったレベルも2段階に減らしました。ユニットを配置できる最大数も、6体から5体に減らしました。

そしてもうひとつの解決策は、プレイヤーが自動的にチェックを行うよう仕向けることです。『ヴォーパルス』のユニットの能力は、常に発揮されるものとごく一部の例外を除けば、すべて「配置したとき」か「経年によって取り除かれたとき」にしか発動しません。「配置したとき」にも「経年によって取り除かれたとき」にも、プレイヤーは必ずそのユニットに触っているはずです。プレイヤーがユニットに触るときにだけ、そのユニットの能力に注意すればいいということです。ユニット自体と関係のないタイミングで発動する能力は忘れてしまいがちですが、この設計であれば忘れることは少ないのではないかと思います。ついでにもうひとつ、常に発揮される能力はそのユニット自身にしか影響を及ぼさない、というのも同じ理由で効果があると思っています。ユニットの状態を気にかけるときには、そのユニット自身の能力を考慮するだけでいいからです。
建物の能力に関しても、似たような設計がしてあります。常に発揮されるものを除けば、建物の能力はすべて戦争の終了時に発動します。そしてその能力はすべて勝利点を得るものです。ゲーム中に勝利点トラックに触るのは基本的には戦争の終了時だけなので、建物の能力が発動するタイミングもそこに統一してあるわけです。
この追跡問題の最大の難点は、デザインした本人がその問題の存在をなかなか把握できないところにあります。自分で作ったルールは当然よく覚えていますし、何度もプレイして慣れてきてしまうので、問題が覆い隠されてしまうからです。そこでやはりテストプレイが重要になってくるわけですが、それに関しては次回の「デベロップメント編」で書こうと思います。
そして次回
以上で、『ヴォーパルス』のデザインに関する話は終わりです。
何をいまさらという内容が多くあるでしょうし、馬鹿げた誤りもたくさんあると思います。それでも恥を忍んで素人の考えを書き連ねるのは、こうやって自分の考えを公開することで、それが他人の考えを知ることに繋がり、結果的に自分のゲームデザインによい影響を及ぼすときがくるのではないかと考えているからです。
デザインというのがいったい何なのかはよくわかっていませんが、今の自分は、「デザインする」というのは「意図を持って作る」ということだと考えています。デザインされたものにはすべて意図があり、意図がないものはデザインされているとは言えません。偶然かたちづくられた石ころはデザインの産物とは言えず、目的を満たす意図を持って設計された椅子はデザインの産物と言えます。もしゲームがデザインされているとすれば、その要素にはすべて意図が込められているはずです。自分はその意図を発見することを楽しいと感じていますし、デザインした本人からその意図を聞くことを常に楽しみにしています。
次回は「デベロップメント編」です。デザインによって作られた『ヴォーパルス』のビジョンが、デベロップメントによってどう成立していったかを書ければと思っています。
ではまた!